大判例

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脇町簡易裁判所 昭和24年(ハ)9号 判決

原告 廣岡一美

被告 金谷嘉平

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は脇町簡易裁判所昭和二十三年(ユ)第二六号家屋明渡調停事件に付昭和二十三年十月二十六日裁判所借地借家調停委員会において被告を申立人原告を相手方、訴外金谷邦一を利害関係人として爲した調停契約の無效なることを確認する訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和十一年秋頃より訴外山下由太郎より同人所有の美馬郡々里町字妙見六十番地の五地上木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十二坪二合五勺、二階坪六坪を賃借し同所に於て農業並びに自轉車修理業を営んでゐるものであるが被告は昭和二十三年九月二十四日同訴外人より右家屋を買受けその賃貸人たる地位を承継し次で同年十月頃原告に対し右家屋の一部明渡を求める調停を脇町簡易裁判所に申立て同裁判所昭和二十三年(ユ)第二六号事件として繋屬した。被告は当時より兄金谷邦一方に妻と幼兒の三名で居住し靴修繕業を営んで居りその住居には不自由なく、之に反し原告としては一部の明渡をするときはその営業に差支へるので被告の申出を拒んでゐたが利害関係人として右金谷邦一が調停に參加し昭和二十三年十月二十六日左の趣旨の調停が三者間に成立した。即ち一、相手方(原告のこと)は申立人(被告のこと)に対し居住の前記家屋を昭和二十四年四月末日限り明渡すこと。一、申立人は相手方に対し前項家屋明渡と同時に金二万円を立退費並びに新築費補助として支拂ふこと。一、利害関係人は相手方に対し自己所有の美馬郡々里町字妙見六十番地(金谷タキ方北東側)宅地約四十坪を相当地代で本日より賃貸したことを双方に於て確認し地代は後日協議することと謂ふのであつて原告は利害関係人との間に牛小屋及び居宅を新築するのに必要な右宅地約四十坪の賃貸借契約が成立したため居住家屋の明渡を承認した次第で右宅地四十坪の賃貸借は該調停條項における契約の要素である。ところが前記宅地は事実上四十坪に甚だしく不足するので原告は已むなく昭和二十三年十一月頃同訴外人を相手方として前記調停の趣旨に從ひ宅地約四十坪の地域を確定しその引渡を求める旨の調停を前記脇町簡易裁判所に申立てた(同裁判所昭和二十三年(ユ)第三四号事件)結果右宅地は四十坪に不足することが推定されたので結局実測の上三十二坪を超えるときは双方とも前記調停條項を遵守する旨の調停が成立した。その後実測の結果は約二十坪に過ぎず結局原告が同地上に家屋を新築することは不可能なことが判明した。そこで当初の調停は原告の錯誤により新築移轉に可能な約四十坪の面積を有するものと信じた結果成立を見たものであつたが以上の理由により法律行爲の要素に錯誤があつたもので無效であるから之が確認を求める爲本訴請求をするものであると述べ、被告主張の事実に対し原告の家族は二名であるが他に店員一名が同居し農地は約一反半を耕作し牛小屋を別に建築する必要もある、又原告としては調停に於て宅地面積約四十坪なりとの申立人側の申出を信用したもので錯誤については原告に重大な過失はないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、被告が調停申立当時居宅に不自由がなかつたとの点、原告が訴外金谷邦一より賃借した宅地が実測約二十坪であるとの点、原告に右宅地の面積につき錯誤の存したとの点並びに原告が同宅地上に居宅の外牛小屋をも新築する趣旨であつたとの点は何れも否認するがその他の事実は総て認める。原告は訴外金谷邦一所有の宅地上に家族二人で自轉車修理業を営み得れば可なりとの趣旨で調停が成立したもので右地上に相当の家屋の建築は可能であり又原告は右宅地を調停前より熟知しても居るから契約の要素に錯誤があつたとは考へられない。原告は又牛小屋を新築する趣旨で調停に應じたと言ふが調停当時牛小屋新築の話はなく從つてこの点は契約内容に含まれてゐないと述べた。

<立証省略>

三、理  由

原告が昭和十一年秋頃以降訴外山下由太郎より同人所有の美馬郡々里町字妙見六十番地の五地上木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十二坪二合五勺、二階坪六坪を賃借し同所に於て農業並びに自轉車修理業を営んでゐること、被告が昭和二十三年九月二十四日同訴外人より右家屋を買受け原告に対する賃貸人たる地位を承継し次で同年十一月頃原告主張の通りの調停を脇町簡易裁判所へ申立て同裁判所昭和二十三年(ユ)第二六号事件として利害関係人金谷邦一參加の上同年十月二十六日原告は同利害関係人より宅地を賃借し家屋を新築して前記家屋を明渡すことゝなり原告主張通りの内容の調停が成立したことは当事者に爭がない。

検証の結果によれば右調停條項中利害関係人金谷邦一が原告に賃貸すべき宅地は実測二十八坪余であることが明らかで右に反する原告本人訊問の結果は措信しない。この事実と原告本人訊問の結果を綜合すれば右坪数に付て原告に錯誤のあつたことは明らかである。しかし右錯誤が所謂法律行爲の要素の錯誤に該るかどうかは第一に原告が宅地を賃借した目的である家屋の新築が可能かどうか、第二に仮に新築が可能としても宅地の狹隘のため新築費用その他に於て予期に反し多額の損害を蒙る等の事由があり前記錯誤がなかつたなれば原告に於て調停に應じないのを相当と認められる事情があるかどうかを考慮しなければならない。そこで第一の点に付特に調停当時新築すべき家屋の構造坪数等に付き意思表示のあつた事実を確認する証拠もなく又他に特別の事情もないから一應原告の現在の使用家屋を標準とするのが妥当である。檢証の結果によると右宅地は三角形を爲してをり地形上利用に不便があるけれども概ね原告の現住居に匹敵する建坪約十二坪位の家屋は少くとも新築し得べく利用方法により現在原告が同宅地上で使用してゐる程度の坪数を家屋として利用し得るものと認められる。右認定に副はない原告本人訊問の結果は信用しない たゞし原告主張の様に牛小屋を同一場所に建築するに充分な余裕はなく又宅地の狹隘と地形上の不便の爲多少建築費等の嵩むことも考えられ以上は何れも原告が契約当初予期しなかつたものと見ねばならない。しかし他面右宅地は原告の現住居とは同じ縣道に面して至近の距離にあり、轉居先としては営業上から見て地理的に良好な位置にあることは前記檢証の結果並びに弁論の全趣旨によつて明らかであり、尚又家屋明渡の調停においては通例二、三年前後の猶予期間において明渡の調停の成立することが多いことは当裁判所に顯著な事実であること、尚原告の明渡並びに新築に付ては被告より相当額の金銭的補助のあることは前記の様に当事者間に爭のないこと等を考へ合すと本件の場合は原告の錯誤の結果予期に反し前記の様な不便を蒙ることは原告に同情すべき事情であるが尚且右各種の條件は明渡に應ずる原告にとつては之を補ふに足る有利な事情と考へられるからかような場合客観的に見て原告に錯誤がなかつたなら調停に應じなかつたであらうとは到底推測することができない。尚原告主張の牛小屋については原告本人訊問の結果によれば現在も同宅地上にはなく附近に建築してあり現住家屋から至近な本件宅地に移つたとしても從來より甚だしく不便を來す次第でもないから以上の判断を動かす理由とはならない。

以上の次第であるから調停成立に際し原告に錯誤の存したことは認められるが所謂要素の錯誤として民法第九十五條を適用する限りではない。

よつて原告の本訴請求は爾余の判断を俟たず失当として之を棄却するものとし訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 合田得太郎)

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